コンサルタントを目指すなら考えておくべき「人を助けるとはどういうことか」。

人を助けるとはどういうことか。

コンサルタントを名乗る、もしくは目指すなら、一度はじっくり向き合うべきテーマだ。

私は新卒で経営コンサルタントの仕事に就き、現在は国際開発コンサルタントをしている。

前者は中小企業の経営者を、後者は新興国や途上国の人々を助けることで対価をもらう、いわば「公式な支援のプロ」である。

コンサルタントと名乗って8年が経つが、上手に誰かを助けられたと感じることは滅多にない。むしろ助けられないケースの方がはるかに多い。

―よかれと思ってした行為が、なぜあんなにお客さんの心を閉ざすことになったのか。

―せっかく良いアドバイスが出来たと思ったのに、なぜお客さんは変わろうとしてくれないのか。

時に苛立ち、時に無力と感じる。

助けることを生業としている以上、支援自体が拒絶されたり、無視されたと感じるのは何より辛い。

どうすればもっと上手に人を助けることができるのだろう。

コンサルタントが陥りやすい6つの罠

人を助けるとはどういうことか。

このシンプルだが本質的な問いに真っ向から取り組んでいる学者がいる。組織文化やキャリア開発の研究で知られる社会心理学者のエドガー・シャインだ。

彼は『人を助けるとはどういうことか』(英治出版)というそのままのタイトルの著書で、支援者が陥りやすい罠を、以下六つ挙げている。

【支援者が陥りやすい六つの罠】

時期尚早に知恵を与える…クライアントが提示した問題を真の問題だと思いこみ、本当に求められているものが何か知らないうちに助言してしまう。

② 防衛的な態度にさらに圧力をかけて対応する…自分の助言や提案は正しいと思いこみ、クライアントを説得したくてたまらなくなる。クライアントが渋ると、自分は引き下がることが出来ず更に説得しようとする、またはクライアントは助言を理解する能力がないと結論づけてしまう。

③ 問題を受け入れ、(相手が)依存してくることに過剰反応する…クライアントの依存度が高まると、支援者は提案にとどまらず、実際に指示を出すようになる。

④ 支援と安心感を与える…状況を合理的に評価するのではなく、クライアントが何を言おうとも支えたいと、同情してしまう。

⑤ 距離をおいて支援者の役割を果たしたがらない…クライアントに深くかかわると、自分の見解を変える羽目になるかもしれないので、一定の距離を置こうとする。

⑥ ステレオタイプ化、事前の期待、逆転移、投影…過去の経験に基づいて、目の前のクライアントをステレオタイプ化してしまう。

新人のコンサルタントがはまりやすいのは、1番、2番、6番の罠だ。

社長が話す問題が、本質的な課題とは限らない。けれどもそのまま鵜呑みにして、情報が少ないうちに課題と決めつけ提案してしまう。 そして大抵撃沈する。

6番に関しては、ある程度知識と経験がついてきた2~3年目の若手コンサルタントによくみられる失敗だ。勉強熱心な若手であればあるほど、仕入れた知識や自分の経験を試したくなってしまう。

意外だったのは、4番目の罠である。

「社員を大切にしたいけど、どうも上手くいかないんだ」なんて経営者に悩みを打ち明けられた日には、

「なんて素晴らしい! 私は社長の絶対的な味方です!

なんて、言ってしまう。

しかし、よくよくコンサルティングを進めていくと、実は社長自身が問題の根本というケースが多々ある。

実際、最初に「社長の味方ですよ」というメッセージを強く出しすぎてしまったため、言いづらいことが言えなくなってしまう状況が結構ある。

一旦この状況に陥ると、経営者自身が生み出す問題を、本人に認識させるのが難しくなってしまう。

支援する側とされる側に生まれる不均衡を気づかせない質問力

一流のコンサルタントは、こうした支援者が陥りやすい罠をしっかりと自覚している。

前職でお世話になった上司のMさんは、経営コンサルタントとしても、上司としても一流だった。彼は、支援する側と支援される側の間に不均衡な状態が自然と生まれてしまうことをよく理解していた。

誰かに助けを求める時、人は一段低い立場にならざるを得ない。逆に助ける側は、助けを求められた時点で一段高い位置に立つ。

シャインによれば、支援する側はこの無意識に与えられた権力を行使したい誘惑にかられ、上記の罠に陥ってしまうという。

Mさんはそうした不均衡な状態、つまり顧客が一段下にいるのを気づかせることなく、相手の面目を保ち、自信を回復させるのが上手かった。

おそらく、ベースの信頼関係がないうちはどんな支援も受け入れられないことを、経験から知っていたんだと思う(一方、いくら論理的で知識が豊富であっても、こうした人の感情の機微がわからない鈍感コンサルタントは、大抵顧客を怒らせていた)。

Mさんは質問の天才でもあった。

時に沈黙も使って、 どのタイミングで、 どういった言葉を使えば十分な情報を引き出せるかよく知っている。

相手は質問に答えるうちに、自分の言葉で自分の課題が明らかになっていくことに気づく。顧客が課題に気づけばこちらのもの。逆に本人が課題を認識しないうちは、どんなに的を射たアドバイスも、ほぼ無効なのである。

彼の姿勢は、顧客へのコンサルティングだけでなく、部下への指導も同じだった。

彼の下で働いた一年の間、あれこれ指導されたという記憶はない。指導というより、悩みを一緒に解決してくれるパートナーのような存在だった。

ちなみにあなたには部下がいるだろうか。一緒に働く仲間がいるだろうか。

もしいるならば、先ほどの六つの罠を見返して欲しい。あなたは上司として、または一緒に働く仲間として、これらの罠に陥ってはいないだろうか。

コンサルタントじゃなくても罠に気を付けよう

人を助けるという行為は、 何も仕事に限ったことではない。

知らない人に道を聞かれたり、友達から恋愛の相談をされたり、家族から留守番を頼まれたり、恋人から足をマッサージしてくれないかとおねだりされたり。

支援をお願いされることもあれば、逆にお願いすることもある。 日常生活のあらゆる場面で、人を助ける行為が行われている。

善意だけで人を助けるのは案外難しい。

助けたい思いが強すぎるがゆえに、「支援者が陥りやすい六つの罠」に陥いらないよう、常に気をつけたいものである。

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