国際協力業界で働きたければ、その意思決定を捨てるところから始めてみるのはどうだろう

将来国際協力の世界で働くことを志望する学生から「どうすればそうした仕事に就くことができますか?」といった質問をよく受ける。

こうした疑問を抱くのはごく自然だと思うし、私が学生の時も同じ疑問を抱いていた。社会人になってからも未だにその答えを模索し続けている。

もしあなたが学生なら、こちらの記事も読んでもらいたい。特に後編の記事では、私が学生時代に国連でインターンをしたときのあれこれをつづっている。

関連記事

「海外インターンに興味があるけどよく分からない」という人向けに、海外インターンのざっくりまとめです。 1.学生に人気の”インターンシップ”とは よく「海外で学びたい」という留学相談や、「海外で働きたい」という就職相談を受ける。だが、実はこの[…]

「語学・専門性・現地経験」の3点セットが入学条件?

この業界でのキャリアステップが見えにくい原因の一つに、以下の入学条件神話が影響していると、勝手に思っている。すなわち、国際協力業界で働くためには以下の3つの要件を全て満たしていなければならないという話である。

  • 高い語学力
  • 高い専門性
  • 現地での実務経験

高い語学力とは英語が不自由なく使えるのは当然のこと、できればフランス語、スペイン語、もしくは従事する国の言葉など、+αを指す。

高い専門性で言えば、何らかの修士号は必須であり、博士号を持っていても特別視はされない。もちろん、金融、農業、水産、ジェンダー、平和構築など、各分野での業務実績も求められる。ちなみに、どんなに必死でインターンやボランティア活動に力を入れても、実績としては認められない。

更に専門分野の実績だけでは一人前とは認められず、現地、つまり途上国や新興国での業務経験が求められる。

・・・。

学生から見たら「そんなもん持ってないよ!!!」と叫びたくなるような入学条件だ。

私が学生の時も、語学力と修士号については何とか自助努力で入手できても、専門性と現地の実務経験についてはどう身につけていいのか検討もつかなかった。

上記条件をまるっと「即戦力を求めます」の一言でまとめ、新卒を拒絶する国際協力業界。高い壁を目の前に、絶望の淵に立たされた気になるのもわからなくない。

曲がりなりにも開発コンサルタントとして働いている自分が学生にアドバイスできることがあるとすれば、「とりあえず目の前の選択肢に向かって頑張ってみては?」の一言に尽きる。

一般的には「まずは選択肢を知ることが大事です。JICA、国連、NGO、開発コンサル、民間企業。それぞれの特徴があるので、自分に合った働き方、仕事内容から逆算してキャリアを考えましょう」とアドバイスするのが正解である。

しかし正直ベースで言うと、そのアドバイスがどれほど役に立つのか疑問だ。

どんなに業界研究やOBOG訪問をしたところで、実際その仕事や職場が合うかどうかは働いてみないとわからない。元も子もない話だが、本当にそうだと思っている。

計画された偶発性

計画された偶発性理論」という言葉を聞いたことがあるだろうか。スタンフォード大学のジョン・D・クランボルツ教授らによって提唱されたキャリアプランに関する考えである。

彼らの主張を簡単に要約すれば、キャリアなんてほとんど偶然の出来事に左右されるんだから、一度立てた目標にこだわりすぎて目の前のチャンスをみすみす逃さないようにね。しかもそうした偶然による幸運って、結構自分で作り出せたりするよ、ということだ。

この考え方は、国際協力業界を志望するような情熱的で志の高い、ついでにこれまで大きな挫折もなく着々と学歴を積んできた学生には特に、耳を傾けて聞いてもらいたいと思う。

彼らの中には、想いが熱く理想に燃えすぎているだけに、他の選択肢を全く考えられない子もいる。

またエリートで逆算志向が強いと、キャリアはまるで一次関数のグラフのように努力と結果が正比例して、まっ直線に伸びていくイメージを抱きがちだ。でも、実際の人生はそんな風にコントロールできる事ばかりじゃない。

クランボルツ氏の著書『その幸運は偶然ではないんです!(原題:”Luck is No Accident”)』では、私たち自身や取り巻く環境も常に変化する時代に、一つの職業、またはある時点に決めた目標にこだわりすぎることに警鐘を鳴らしている。

私たちは、常にオープンマインドでありながら、暫定的なキャリア目標を持つことには反対しませんが、人々がひとつの職業にこだわりすぎて視野が狭くなり、他の選択肢が見えなくなって不幸になる人たちを見たくありません。

選択肢に常にオープンでいる

なぜこんな説教くさい事を学生に伝えるかと言うと、数年前、私自身が絶望の淵に立たされた頭デッカチの学生だったからだ。

国際協力の道を目指して大学院まで進み、インターンもして語学力も身につけた。なのに「即戦力を求めます」という高い高い現実の壁が目の前に迫り、まるで人生オワタかのように研究室で大泣きしていた。

そんなある日、憔悴しきった私の姿を見かねた先生が「とりあえず民間の就活でもしてみたら?」とアドバイスをしてくれた。

そしてこのアドバイスこそが、それまで考えもしなかった経営コンサルティングという(大好きな)職業との出会いをもたらしてくれたのだ。

その数年後、経営コンサルタントとして働いた実績が評価され、現在の会社の内定に結びついた。

まさに偶発性理論の通りだった。ふっと沸いて出た選択肢にオープンでいた結果、自分が思い描くことすらなかった幸運を引き寄せることができたのだ。

もし私が「いや、これまで国際協力一本で来たので、民間企業には行きません!」と断固拒否していたら、目標への道はもっと遠回りだったかもしれない。なんなら開発コンサルタントになれていなかったかもしれない。

偶然性に頼ることを恥じる必要はない

開発コンサルタントの仲間は、半分は協力隊出身など王道を通ってきた人だが、もう半分は様々なバックグラウンドの人たちだ。

元教師もいれば、メーカー出身者、生命保険や不動産の営業、元銀行マンもいる。一見国際協力とは関係ないような経歴の人がたくさん活躍している。

もしあなたが国際協力の世界で将来働きたいけれど、就職活動がうまくいっていないと感じるのであれば、まずは「絶対に国際協力の世界で生きていくぞ!!」と言う意思決定を捨てるところから始めてみるのはどうだろうか

変なプライドは邪魔なだけ。クランボルツ氏の言葉を借りれば、「偶然性に頼ることを恥じる必要はない」のである。

関連記事

人を助けるとはどういうことか。 コンサルタントを名乗る、もしくは目指すなら、一度はじっくり向き合うべきテーマだ。 私は新卒で経営コンサルタントの仕事に就き、現在は国際開発コンサルタントをしている。 前者は中小企業の経営[…]

人を助ける
国際協力キャリア
最新情報をチェックしよう!