存在意義

先日、起業家やフリーランスをサポートする会社の方と話す機会があった。安倍政権の後押しもあって、フリーランスを活用したいという企業と、独立を目指す人両方の需要が増えているという。

しかし本当にこのwin-win関係がうまくいくためには、新米フリーランスと新米受け入れ企業の両方が成長していかなければならないと思う。

私はフリーランスになって1年半が経つが、振り返ってみると企業にも成長ステージがあるように、フリーランスにも成長ステージがあった。それぞれのステージで抱える課題も異なり、従ってやるべきことも変わってくる。

 

 

フリーランスがたどる4つの成長ステージ

ステージ1:とにかく受注・製造・納品

会社員時代は会社という大きな船の乗組員だったが、フリーランスは違う。まずは自力で船を海に漕ぎ出せるようにならなければいけない。

めちゃくちゃシンプルだが、まずは顧客を見つけることが大事。マーケティングとか小難しいことは考えず、知り合いから仕事を頂いてはきちんと納品する、を繰り返す。

正直この段階で課題はあまりない。目の前の仕事に一所懸命取り組んでいる限り、一応船は進み続ける。

 

ステージ2:顧客の数を増やし、製産能力を上げる

一所懸命仕事をしていると、フリーランスとしての自信がつき始める。一社だけに依存するのは危険なので、顧客の数を増やし売上を大きくする。

営業として売上が増えたと喜ぶのも束の間、同時に自分が製造側であることにも気づく。納品が追いつきそうになく、軽くパニックを起こす。

この頃になって請け負う業務範囲の設計と値決めが超重要だと気づく。

お客さんが知り合いやベンチャー企業だと、ノリで契約を結んでしまうことがある。また受注欲しさに安請負してしまうことも。条件をよく確認せずに仕事を始め、予想以上に時間がかかった、終わってみれば赤字だった、なんてことが結構ある。

特にベンチャーの場合は、業務範囲をキレイに区切るのは難しい。簡単に言えば「何でも屋」として手伝うことになる。

しかしその会社に就職する気がないならば、何でも屋を引き受けるのはお勧めしない。相手に変な期待を持たせてしまうからだ。

もし正社員になる気がなければお互いが不幸になってしまうので、最初は小さい仕事から受けるのが良いと思う。結果的に長く細く付き合えることが多い。

 

ステージ3:個人商店の限界が見えてくる

実績が積み上がってくると、頑張って営業をしなくても仕事の依頼が舞い込んでくるようになる。課題は必然的に製造となるが、どんなに生産効率を上げたって限界はすぐ見えてくる。

 

ここで初めて大きな岐路に立つことになる。

誰かを雇うのか。それとも仕事を断るのか。

前者であれば誰とやるのか。後者であればどの仕事を断るのか。

仕事を選ぶということは、今までYESと言っていたことに対して、NOと言わなければならない瞬間があるということだ。

そして、この何をやらないかを決めることが、フリーランス人生の中で最も難しい決断だった。

 

ステージ4:次に進むべき道を決める

一年立って後ろを振り返ると、船が結構沖まで出てきてしまっていたことに気づいた。

その間、手元には何の地図もコンパスも持っていなかった。恥ずかしいことに、どこに向かうのか目的地すら決めずに漕ぎ出していた。

一年経って一人で出来ることの限界を知り、初めて「私はどこに向かっているのか」という根本的な問いを考えることになった。

 

このままフリーランスを続けることはできる。でも、どんなフリーランスになりたいのか? フリーランスとして何を成し遂げたいのか? 私は誰のために、何のために役立ちたいのか?

……ん? 何かこんなようなこと、どこかで聴いたことあるな……あああ!!! そうだ、これが「存在意義」ってやつだ!!!

ということで、経営コンサルタント時代に散々叩き込まれた「存在意義」の重要性を、やっと思い出したのです。

 

あなたと相手企業に存在意義はありますか

存在意義とは、一般的に経営理念と呼ばれるものである。「うちの会社は何のために存在するか」を明文化することで、経営理念に共感する仲間が集まりやすく、経営が加速する。

だから私は、存在意義はてっきり企業(二人以上の組織)だけに必要なもので、フリーランスには不要だと思い込んでいた。

しかしそれは間違いだった。なぜならフリーランスの仕事もまた、企業の経営者同様、決断することだからだ。事の大小なんて関係ない。全て自分で決めなければいけない。正直、誰かに決めて欲しいと思う時も沢山ある。

繰り返しだが、特に難しいのは「やることを決める」よりも「やらないことを決める」ことだ。出来るか出来ないかではなく、やるかやらないか。

私の場合具体的には、どの仕事を選ぶか、つまりはどのお客さまを断るかを決断するのが一番しんどかった

仕事内容なのか、人柄なのか、それとも利益率か……判断軸はたくさんある。いくらロジックで割り切ろうとしても、断るのは申し訳ないという感情が延々と湧いてくる。

心のモヤモヤが最高潮に達した時、ついに前職の上司にヘルプを出すことにした。

私の話を一通り聞いて上司は一言、

「その(断ろうとしている)会社に存在意義はあるの?」

と聞いてきた。

「えっ……? 存在意義ですか……何となくはあると思うんですけど」

「何となくではダメだよ。明文化された存在意義はあるの?」

確かに、その会社に明文化された存在意義はなかった。

どんなに他の条件が良くても、存在意義に共感出来なければ長く一緒に仕事することはできないよ。断ったとしても、それは大島さんが非情とかそういう問題じゃない。

でもその会社は存在意義がないんでしょ?ないならそもそも判断が出来ないよね。だからまず、存在意義は何か聞いてみればいいんじゃないのかな。」

この一言によって、心のモヤモヤは一瞬にして吹き飛んでいった。

同時に、私自身の存在意義も明文化されていないから、何も判断ができないことを悟った。

 

経営理念で飯は食えないけど、次のステージに進むためには必要

この一件があって、私はノートにこっそり自分の存在意義を書き留めた。

お客様の存在意義と自分の存在意義が重なれば、どんなに高い要望でも期待に応えるべく努力する。でも存在意義が違う、または不明確だったら勇気を持ってお断りする。

そう決めたおかげで、また船を漕ぎ出すことができるようになった。

 

コンサルタント時代、存在意義の大切さを今日ほどには理解していなかった。

「経営理念で飯は食えないでしょ」

「うちの会社はまだまだ小さいから、そんなの必要ないよ」

中小企業の社長に言われた言葉が、フリーランスの自分と重なる。

確かにその通り。

でも存在意義がないと、誰と一緒にやりたいかもわからないし、どのお客様の役に立ちたいかも決められない。

現状維持はできるけど、次のステージには進めないんじゃないのかな。企業も、働く私たちも。

 

 

1985年生まれ 東京都出身

経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの現地法人へ転職し採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのちフリーランスとして独立。現在は開発コンサルタントとして国際開発援助やソーシャルビジネス支援に従事。