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『謎とき冒険バラエティー 世界の果てまでイッテQ!』というテレビ番組がある。

私はこの番組が好きでちょくちょく見るのだが、特にイモトアヤコが世界の険しい山を登る「イッテQ!登山部」が好きだ。

先日放送されたアイガーの回は、彼女の勇姿に心が震え、開始直後から涙と鼻水が止まらなかった。

ちなみに誤解のないよう言っておくと、『世界の果てまでイッテQ!』はバラエティ番組である。決して情熱大陸やプロフェッショナルばりの正統派ドキュメンタリーではない。

しかし私にとってのイッテQ登山部は、ド直球のドキュメンタリー番組だ。その理由を解説する前には、まずイモトアヤコという人間について触れておく必要がある。

 

ーイモトアヤコー

1986年1月12日生まれ、30歳独身、職業:ピンの女性お笑い芸人。

プロフィールがすでに私の心を揺さぶってくる。この時点で彼女の生き方の8割に共感し、ほぼ半泣きてしまう。

 

そうだよねイモト、たくさん芸人いる中で自分の色を出して頑張るしかないよね。

そうだよねイモト、時にはドラマに出演してもしかしたらこっちの道もいけるんじゃないか、って本業から浮気したくなる時もあるよね。

そうだよねイモト、仕事も本気だけど、たまには恋もしたいよね、女の子だもん。

そうだよねイモト、本当は誰よりも真面目でめちゃくちゃ”女子”なのに、眉毛太く書いて自らおちゃらけちゃうんだよね。

 

妄想の中で私は勝手に彼女の悩みを聴き励ましている。もちろんイモト自身が言ったわけでもなく、頼まれた訳でもないのだが。

とにかくそんな私のハートをがっちり掴んではなさないイモトが、アルプス山脈のアイガーという山に登るというではないか。アイガーは別名「死の崖」と呼ばれるほど厳しい山。

画面には次々と切り立った岩肌が映し出される。見ているだけでお尻の裏がゾクゾクしてくる。一歩足を踏み外せばガチで死に至る山ということが、全く詳しくない私ですらわかる。

 

イモトはこれまでもマナスルやマッターホルンなど過酷な山々を登っているのだが、基本的に登るのを嫌がる。お決まりの前振りのように、全力で嫌がる。

「嫌だ、怖い、もうやりたくない」

ネガティブな言葉のオンパレード。

一瞬でも気が緩めば否応なく不安と恐怖に包まれる。一旦そっちサイドに落ちてしまえば、気持ちを立て直し這い上がってくるのは難しい。

今回もまた、気持ちが途中で折れてしまった。足が全く動かない。

しかしイモトがすごいのは、ここからである。恐怖と不安を怒りというパワーに変えて、泣きわめき散らしながらまた登り始める。そして絶対に毎回登り切る。

彼女は知っているのだ。登山に必要なのは己に打ち勝つ強い心だけだと。

 

そんなイモトの姿を見ていて、ある経営者の言葉をふと思い出した。

「見えているやつは、ハッキリ見えるからこそ悩み苦しむんだよ。」

 

確かに、何かに本気で取り組んでいると、やればやるほどその道のりが険しいことがわかってくる。

遠くから見ているうちはぼんやり映る山も、いざ登ると決めて間近で見ると、その輪郭がハッキリしてくる。あまりの険しさに、自分は今からとんでもないことに挑戦しようとしてるんだ、と改めて気づく。

 

おそらく経営もスポーツも芸術も同じで、「山を登る」と決めた人たちは皆、その道が決して容易い道ではないことがハッキリ見えている。

例えば「プロ作家になりたいなあ」と漠然と思っている人と、「プロ作家になる」と覚悟をした人では、小説の読み方一つとっても全く違う。

それまでただのエンターテイメントとして純粋に楽しんでいた小説が、腹をくくった瞬間から違うものに見えてくる。掌に乗る小さな一冊の紙束に、作家の努力と魂の叫びが見えてくる。圧倒的な実力の差を、まざまざと見せつけてくる。そしておかまいなしに問いかける。

 

「この世界に飛び込む覚悟はあるのかい?」

 

改めて自分が踏み出そうとしている一歩の重みを実感する。踏み出したらもう後には戻れない。

後ろを振り返ると、「山なんて本気になったらいつでも登れるっしょー」と無邪気に言う自分がいる。何も見えていなかった時の自分が羨ましいとさえ思う。

不安と恐怖で身体が硬直する。怖い、嫌だ、どうしよう、逃げたい、やりたくない。

 

すると今度はイモトが私に話しかけてくる。

「もう私たちは前に進むしかないんだよ! 登るって決めちゃったんだから!」

うん……そうだよね、その通りだよイモト、私頑張る。締め切りが迫ってるのに全力で書いた文章が保存されずに消えちゃって徹夜確定だけど、私泣かないよ! 書くよ! ひたすら書くよ! 一緒に山を登るよ!

 

……ということで、仕事に戻ろうと思います。

週の真ん中、今日も一日頑張りましょー

 

1985年生まれ 東京都出身

経営コンサルティング会社へ新卒で入社。その後シンガポールの現地法人へ転職し採用業務に携わる。日本人の海外就職斡旋や、アジアの若者の日本就職支援に携わったのちフリーランスとして独立。現在は開発コンサルタントとして国際開発援助やソーシャルビジネス支援に従事。