私の朝はスマホに表示される小さな赤い丸、つまりは永遠に消えることのないプッシュ通知を見て見ぬふりをするところから始まります。
スマホは必要な情報を調べるには便利ですが、不要な通知に振り回されるのは正直しんどい。通知設定をオフにすればいいだけの話だけれど、仕事で使用するものはそうもいきません。
駅に行けば電車広告が目に留まり、スマホを開けば友人の投稿が目に入る。ネットを開けば、こちらからお願いしてもいないのに、商品をおススメしてくれます。
自分の意思とは無関係に、次から次へと情報が流れてくる。今の世の中、誰よりも早く、誰よりも多く知っていることを是とする風潮がある気がしますが、本当にそうなのでしょうか。
遅読と速読の違い
情報と知識は違います。
「とりあえず知っておかなければ」という焦りに突き動かされたくはありません。自分が本当に身に着けたい知識とは何なのだろう。そんなことをちゃんと立ち止まって考えたいと思うようになり、最近あることを実践するようになりました。
「遅読」と「手書きのノートまとめ」です。
読書術といえば、一般的には速読のほうが身近だと思います。スピードを上げることで沢山本を読むことができるし、効率的に情報も収集できる。時間に追われる現代人には必要なスキルかもしれません。
一方遅読とは、読んで字のごとく、一冊の本をじっくり時間をかけて読む方法です。
速読がファストフードとすれば、遅読は上質なコース料理とでもいえるでしょうか。
速読は、その場の空腹を手っ取り早く満たしてくれます。反対に遅読は、料理を一品一品味わうように、本の一頁一頁をゆっくり味わっていく。時間はかかるけれど、その分深く理解することができる。
それぞれの読書術にはメリット、デメリットがあり、目的によって使い分ければ良いと思います。
ただ私が遅読を始めた理由には、情報過多の毎日から抜け出したいという思いがありました。
しかしそれとは別に、なんとなく脳が劣化しているような気もしていたんです。
多読家の先輩に、
「本を読んでも理解できなかったら、自分のレベルがその本に到達していないということだよ。理解したければ、経験値を上げるか、時間をかけて丁寧に読むしかない」
と言われたことがあります。
確かにその通り。難しい本を速読ノウハウだけで攻略することは出来ません。
新卒の時に理解できなかった本を今は簡単に読めるのは、仕事を通じてあらゆる経験値が上がったからです。
一方哲学書のような本は、経験値だけではカバーできない。抽象的な概念を咀嚼する力を鍛えないと、いつまでだっても自分のものにはできないでしょう。
筋トレと一緒で、脳も意図的に負担をかけないと、次のレベルに到達できない。難しい本に挑戦しなければ、思考力は上がらないのです。
遅読で思考力を高める方法
私が実践する遅読は、以下の通りです(遅読術のような本は一切読んでいないので、完全な自己流)。
- 自分の現在の思考レベルより「少しだけ」難しい本を用意する
- 一章ずつ、ノートに手書きでまとめていく
現在の思考レベルより「少しだけ」難しい本を読む
まずは自分の思考レベルより少しだけ難しい本を用意する。ポイントは、「少しだけ」難しい本を選ぶこと。
圧倒的に難しい本を読むことは、腕立て伏せ10回もできない私が、いきなりウェイトリフティングに挑戦するようなもの。筋力がつくどころか、バーベルが頭上に落ちて死んでしまうかもしれません。
難しいと感じる基準は完全な感覚。
参考までに、私は一度黙読して頭に入ってこなかったら、確実に自分の思考レベルを超えた本だと判断しています。
これが音読をしたり、2~3回読み直してようやく頭に入ってくるようであれば、「少しだけ」難しい本と認定する。逆に一度読んですんなり理解できる本は、遅読の対象外としています。
一章ずつ、ノートに手書きでまとめていく
次に、一章ずつノートに内容をまとめていく。ポイントは手書きでまとめること。
脳神経外科医の築山節氏によると、脳の能力を高めるには、次の4つの訓練が効果的だそうです。
・情報を意識的に脳に入力する
・情報を脳の中で保持する
・入力した情報を解釈する
・脳の中にある情報を出力する
『脳が冴える15の習慣 記憶・集中・思考力を高める』(生活人新書)
具体的には、新聞コラムを手書きで書き写す。脳に情報を長く留めるトレーニングとして、パソコンよりも手書きの方が効果的なのだそう。
私の場合、マインドマップの要領で、読んだ内容を一枚の紙に描くようにしています。誰かに見せるわけでもないので、見た目や論理性などは一切無視。
自分の心に響いた言葉やフレーズだけ抜き出し、一文字ずつ手で書き写していきます。制限時間も設けない。自分がしっかり理解できたと思えるまで、ゆっくり丁寧に読み込んでいく。
この遅読&手書きまとめの効果は、すぐに実感できました。ノートにまとめる、つまりはアウトプットを意識するだけで、インプットの質が驚くほど変わります。
本を丸々一冊転写はできないので、自然と要点を意識するようになります。
この一文で筆者が言いたいことは何か。全体の構成はどうなっているか。なぜこのような構成にしたのか。
本と対話をする感覚で、筆者の思考の足跡をたどっていきます。
まだ数冊しか検証していませんが、この方法を試した本は、多少難しくとも読めるようになりました。おそらく先ほどの「脳を鍛える4つの訓練」を、無意識に繰り返していたからだと思います。
情報を知識に変え、意見に変える
紹介した遅読術は、何も真新しい方法ではありません。実はどれも、小学校の国語の授業で習ったことばかりです。
国語の授業が人生の何に役立つのか、ずっと不思議でした。でも、大人になった今、ようやくわかった気がします。情報に振り回されてしんどくなった私たち自身を、助ける術を学んでいたのです。
世の中にはたくさんの情報が溢れています。本だろうとネット記事だろうと、その質はピンからキリまで。
速読術を磨けば、その多くに目を通し効率的に情報を得ることができるでしょう。同時に遅読力を高めれば、情報の質を見抜く選別眼が磨かれる。
ただの情報を知識に変え、そこから自分の意見を生み出す。
発信した意見が他者への刺激となり、新たな情報へと生まれ変わる。
そして自分の元へ戻ってくる。
更に質の高い知識を世の中に生み出すことができれば、それはもうただの読書術ではなく、立派な社会貢献と言えるのではないでしょうか。