通訳しやすい日本語でありがとう
少し前ですが、参加者全員がフランス語スピーカーの外国人という状況で、研修講師をする機会がありました。
フランス語は学生の時に授業で取ってはいたものの、その頃覚えた単語は記憶の彼方に飛んでおり、自己紹介するのがやっと。
なので二日間の講義は、すべてベテラン日本人女性の通訳さんが訳してくれました。
無事に講義を終えてホッとしてると、ふいに通訳の方が私のところへやってきて
「とても通訳しやすい日本語で話してくれてありがとうございました!本当に助かりました!」
と満面の笑みでお礼をしてくれました。
突然のことで少々驚きましたが、なるほど、確かに私の日本語は無意識のうちに通訳しやすい日本語だったのかもしれません。
「通訳しやすい日本語って何?」という感じですよね。
私自身、英語の通訳をお願いされることがあるので分かるのですが、実は「通訳しやすい人」と「通訳しにくい人」というのが存在します。
通訳しやすい人というのは、ここでいう通訳しやすい日本語を話す人のことです。
中間日本語は、変な日本語
通訳、あるいは翻訳しやすい日本語のことを中間日本語と呼びます。
中間日本語という概念は、もともと英語教育者の中津燎子氏が提言したものらしく、「日本語と外国語の間を橋渡ししてくれる言語」を指します。(※参考文献:『』(著)三森 ゆりか)
そしてこの中間日本語の感覚を身に着けることこそが、英作文をするときの最大のポイントだと思っています。
「頭が痛い」ではなく「私は一つの頭痛を持っている」
例えば「頭が痛い」という日本語を英語にする場合。
英語の勉強を始めたばかりの日本人―つまり中間日本語の感覚がまだ身についていない日本人は、たいてい
という文を作ります。
この英作文の発想の裏側には、「頭が」が主語だから S = My head、「痛い(む)」が動詞だからV= hurts、という感じです。
もちろんこれでも間違いではない。むしろ学校の授業で習った文法知識を活用して、正しい文が作られています。
しかし一般的に「頭が痛い」は、
と表現するほうが自然。
“I have a headache.” をそのまま日本語に直訳すると「私は一つの頭痛を持っている」という変な日本語になります。
「え?なんでそんな変な言い方になるの?」と思いますよね。
日本人からすると、まず主語の「私は」がわずらわしい。そして頭痛を数える「一つの」が不自然。加えて頭痛は「持つ」ものではない。
しかし極端に言うと、この変な日本語こそが中間日本語であり、自然な英語に直すために必要な発想の転換なのです。
英語と日本語はそもそも違う言語
自分の言いたいことを英語で表現しようとするとき、そもそも日本語的な発想をまずは捨てないといけない。そうしなければ、英語の発想が入る余地が生まれません。
ここで大事なのが、英語と日本語は異なる言語なんだという大前提を受け入れる素直さです。
これはどの言語を学ぶ上でも大事な心構えです。同じ現象であっても、それをどう表現するかはその国の文化や国民性などによって異なります。
例えば日本語は「胃が痛い」「髪が短い」「足が長い」など「○○が△△(動詞または形容詞)だ」と表現します。
対して、英語では “I have a stomachache”、“He has short hair”、 “She has long legs” など、身体に関する表現は動詞に have を用いて SVO の文型を取ることが多いです。
have には物理的に持っているという意味だけでなく、有形無形問わず概念的に所有しているという意味があります。
おそらく英語を話す人たちは、胃痛も髪も足も所有物として捉えたので、このような言い方になったのではないでしょうか。
一文は短く、言いたいことは一つまで
もう一つ例を考えてみます。
「最近雨の日が続いて嫌です」の主語は誰?
例えば「最近雨の日が続いて嫌です」という日本語を英語に直す場合、
という答えが思い浮かぶかもしれません。
「雨の日が「続いている」のだから、時制は現在完了形の継続かな?「嫌がる」という意味の動詞は、たしか mind があったはず。」
このような発想で、上の英文を書きたくなってしまう気持ちはとてもわかります。英作文の思考としてはかなり良い線をいっています。
ただ残念ながらこの英文は不自然。なぜなら、
- 「雨の日」をそのまま主語にしている
- 天気には使わない continue(続く)という動詞を当てはめている
- 「嫌です」という動詞に対する主語が抜けている
という感じで、やはり日本語の発想をそのまま英語に当てはめて作文してしまっているから。
もし自然な英語に直すなら
という感じになります。
この表現にたどり着くには、まず
- 天気を表す際の主語は it が使われる
- 現在完了形の形を取れば継続の意味が自然と含まれる(continue を使う必要がない)
という文法の知識を持っていることが前提ではあります。
しかしそれに加えて「雨の日が続いて嫌です」という一文を「雨がずっとたくさん降っている(そして今も降り続いている)、最近」「 私はうんざりです、この雨の天気には」と、英語に訳しやすい日本語の2文に分けています。
この作業によって、後半の I am sick of ~ のように、主語・動詞・目的語が一致する英文を作ることができます。
まずは主語を意識するところから始めよう
結論から述べる欧米スタイルに比べ、日本人は最初に「~して、~で」と、理由をとうとうと述べて、最後に結論をもってくることが多い。
この、一文に言いたいことがバラバラに盛り込まれているのも日本人がつくる英作文の特徴です。
また日本語は主語が省略されることがよくあります。外国人からすれば、主語がないのにどうやってコミュニケーションが成立するのか、不思議で仕方ないかもしれません。
- 主語を明確にする
- 言いたいことは一文に一つまで
おそらく冒頭の通訳さんは、私の話す日本語は主語が明確で、一文一文が短かったので「通訳しやすい」と感じたんだと思います。
まずはこれら2点を意識するだけで、だいぶ英語の発想に近づきます。
日本語としては変だけど、英語に訳すにはちょうどいい中間日本語。
自分が英語を話すときはもちろん、誰かに通訳をお願いするときも役立ちます。きっと「あ、この人は英語をわかっている人なだ」と一目置かれることでしょう。
英語を習得するためにも、ぜひこの中間日本語の感覚を磨いていってくださいね。
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