リスニングでスコアが上がらない理由は実に様々です。こちらの記事でも解説している通り、リスニングができない理由は「音が聴き取れない」以外に、文法、語彙、背景知識など様々な要因があります。
もしあなたが英語独特の「音」が理由で聴きとれていないなら、精聴の練習が効果的。
精聴とは、一言一句聴きとることを指します。
- スクリプトを見ればわかるのに耳だけでは聞き取れない
- 単語の拾い聞きになってしまい意味を正確に取れない
- 英語特有の発音がとにかく苦手
上の課題に一つでも当てはまる方は、この記事を参考に基本的な発音練習から始めてみてください。実はこの発音の練習不足が正確な聴き取りを妨げている可能性が大きいのです。
当記事では、なぜ発音がリスニングの基礎練習となるのか、英語の母音はいかに多様か、英語が持つリズムの重要性について解説します。
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発音とリスニングの関係
まず最初に皆さんにお伝えしたい、とても重要な事実(?)があります。それは、
ということです。めっちゃ強調してみましたが、この話、どこかで聞いたことはありますでしょうか。ちなみに私が学生の頃は、発音の重要性について説いてくれる先生は一人もいませんでした(それはおそらく日本人の先生自身が自分の発音に自信がなかったからなのかな、と思います)。
ところが自分が講師となって多くの生徒さんを見るうちに、「リスニングが得意な人は発音も上手」もしくはその逆もしかり、ということに気づきました。
そこで色々と調べてみたところ、発音の向上がリスニング力の向上につながっているという説にたどりついたのです。
リスニングは「音」と「意味」
リスニングは大きく「音を聴きとる」作業と、「意味を理解する」作業に分かれます。私たちは普段から無意識のうちに、これらの作業を同時進行で行っています。
音を聴きとる作業だけでも大変なように思えますが、意味を理解する作業も非常に大変です。
単語の意味や文法がしっかり定着していないと瞬時に意味を理解することはできませんし、話者の立場や聞き手との関係性などを察知できないと、微妙なニュアンスをつかむことが出来ません。専門的な話を理解するには、背景知識も必要です。
とはいえ、やはり最初に耳に入ってくる「音」を聴きとれなければ、その先の「意味を理解する」ところまで辿り着きません。
言語学者で『英語徹底耳練!』(実務教育出版)の著者である外池滋生先生はこんな風に仰っています。
色とりどりでさまざまな模様のある絨毯の上に落ちた何かを探すときに、その形と色を知らなければ見つけることは容易ではありません。それと同じように、連続する音の中から単語を聴き分けるためには、その単語がどのように聴こえるかを知らなければなりません。
日本語と違って、英語はなんだか流れる音楽のように聞こえる。単語と単語がつながったり、ハッキリ・ゆっくり発声したと思えば、急に早口言葉みたいにゴニョニョ言っている。
そんな風に聞こえるのは、実は正しい聞こえ方。
ただそこから意味を取るためには、先生が仰る通り連続する音の中から単語を聴き分ける必要がある。そのためには、音の原型、つまりその単語の正しい発音の仕方(そして変化の仕方)を予め体で知っておく必要があります。
発音練習の前に準備しておきたい2つのこと
ということで、この記事のタイトルの通り、発音練習こそがリスニング練習の基礎となります。
では正しい発音を体で覚えるためには、いったい何から始めれば良いのでしょうか。
まず絶対にやってほしいことは「発音練習を学習計画に組み込む」ということです。まあ、何か新しいことに取り組むときはとにかく時間から確保。これ鉄則。
次に大事なのが、間違った発音の知識を意識的に捨てること。これもまた非常に重要です。↓の記事で書いている通り、まずは間違えて覚えてしまったカタカナ英語の発音とサヨナラしましょう。
早い内にサヨナラをしないと、この記事内で紹介している生徒さんのように、大人になってからメチャクチャ苦労します。
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英語の”aiueo”は日本語の「あいうえお」ではない
発音練習の一つ目のポイントは英語の母音の多様性を知ることです。
分かりやすく言うと、英語の a, i, u, e, o は日本語の「あ・い・う・え・お」ではないということ。
これは基本中の基本の話なのですが、スペルの中に母音を見たら「あいうえお」に照らして発音する人がとても多いです。
でもそんな丁寧な説明が学校でされることはなく、私と同世代から上世代の人の多くは、ローマ字の読み方を英語の発音の仕方と混乱したまま育ってしまうわけです。
話を戻しますと、英語の母音は16個から、多くて26個もあると言われています。現代日本語の5個とは比べものにならないくらい多いです。
例えば “a” という文字一つとっても
- Sad [sǽd](悲しい)- つぶれた「あ」と発音
- Say [sei](言う)- 「えい」と発音
- Salt [sɔlt] (塩)- 「お」に近い発音
と、様々です。
ここで母音26個を紹介するのは少し趣旨からズレますので、基礎から学びたいという方は是非フォニックスや発音矯正の本やサイトで練習してみてください。
私のお勧めはあいうえおフォニックス。You Tube もあるので実際に音を確認することもできますし、とにかく声と映像に癒されます。本も出版されています。
▼お勧めはこちら
とにかく大切なのは、母音( a, i, u, e, o )を見ても、すぐに日本語の「あ・い・う・え・お」に結びつけないということです。
英語には強弱と速遅のリズムがある
次に重要なのがリズム。すごく大事な話なのに、これもまた学校ではあまり教えられません。
英語は日本語と違い、強く発声する部分と弱く発声する部分、また速く発声する部分と遅く発声する部分があります。その結果、日本語にはないリズムが生まれます。
例えば単語単体で言うと、banana [bənǽnə]は「バナナ」ではなく「バナ~ナ」と、真ん中のナを強く発音しますよね。
日本語のタン・タン・タンという一定のリズムではなく、タン・タ~ン・タンというリズムになります。
これが例えば “She was eating a banana.” のように文になると、”She was eating a banana.”のように、太文字の箇所(専門的には「強勢を持った母音」と呼びます)が等間隔で強く発音されます。
「強勢を持った母音が」「等間隔で」の部分を説明するとかなりややこしくなるので、とにかく日本語とは違うリズムで強弱・速遅があるということだけ頭に入れておいてください。
この強弱・速遅を意識して練習するだけで、抜群に発音力が向上します。
発音練習とリスニングが同時に叶うおススメ参考書
これらの「発音練習」(特にリズムの方)と「リスニング練習」が同時に叶うおススメの参考書をご紹介したいと思います。
途中で引用させて頂いた外池滋生先生の『英語徹底耳練!』(実務教育出版)です。
普段は TOEIC の授業でおススメしているのですが、IELTS や TOEFL でも、特にリスニングに苦しんでいる方(IELTS 6.0、TOEFL iBT 70点あたりをウロウロしている方 )であれば十分効果が期待できる本です。
この本の良いところは、下の写真のように強く発音されるところが赤字で強調され、かつ音声変化が起きているところには連結マークがついている点です。
発音もアメリカ、カナダ、イギリス、オーストラリアと多様で、内容も会話文とレクチャー(一人の話し手が話し続けるもの)が用意されています。
問題を解くというのではなく、一言一句丁寧に発音を聴きとり、自分も声に出して練習することに重きが置かれています。
フォニックスの本は沢山出版されていますが、リズムや音声変化を意識して練習できる良書は数少ないです。
今日お話した「母音の多様性」と「英語のリズム」は、リスニング基礎練習のほんの一部です。発音のルールや音声変化の知識を頭に入れたところで、たくさん聴いてたくさん声に出さないことには、リスニングも発音も上達しません。