最近では「音声変化のルールを学び、効率的にリスニングに取り組みましょう」という流れが主流になりつつあります。
音声変化のルールは、知っていれば確かに役に立ちます。ですが、ルールの知識そのものがリスニング力向上にどれほど役立つのか、疑問を抱いたことはないでしょうか。
- 音声変化のルールって覚えるべき?
- ルールを知ったところでどう使う?
- 音声変化を勉強したけど、全然聞き取れないぞ?
本記事では、リスニングが苦手な人が陥りがいちな『悪い癖』を例に、音声変化ルールの活用の仕方についてお話します。
『悪い癖』を直さない限り、音声変化のルールを学んだところであまり意味がありません。
あなたも無意識のうちに『悪い癖』が染みついていないか、確認の意味も込めて参考にしていただければ幸いです。
そもそも音声変化とは
そもそも「リスニングができる」とは一体どのような状態を指すのでしょうか。
この話は以前、リスニング総合力を上げるために必要な4つの要素『聞き取れない本当の理由』という記事で解説しました。
簡単におさらいをすると、リスニングが出来る=耳から入った情報を素早く処理できる状態です。
もう少し専門的に言えば、リスニングをしている時、人は「音声知覚(耳から情報を入れる)」と「意味理解(情報を素早く処理する)」の二段階を踏んでいます。
そもそも第一ステップの音声知覚が出来なければ、意味を理解することが出来ません。ですから音声知覚は必須スキル。でも、多くの日本人が苦手とするのもこの第一ステップなのです。
では、なぜ多くの日本人は、英語の音を正しく知覚できないのでしょうか。
それは間違った発音で覚えているから。
例えば “An apple” のネイティブ発音は「アン・アップル」ではなく、「アナッポー」です。
An の n と apple の a がつながって「ナ」という発音に変わり、apple の最後の le は、日本語の「ル」ほどハッキリ発音しません。
このようにアルファベットの並びによって音がつながったり、ある音が消えたりすることを音声変化といいます。
“An apple” を「アン・アップル」と間違った発音で覚えていては、いつまで経っても「アナッポー」を聞き取ることが出来ません。ここから、
というロジックが生まれます。しかしです。
本当に音声変化のルールを知ったところで正しく聞き取れるようになるのでしょうか???
英語を教える身として、音声変化のルールを教えることにどれだけ意味があるのか、いつも悩んでおりました。
ある生徒さんの例
そんなある時。
リーディングは得意だけれどリスニングが苦手な生徒さんに共通する『ある行動』を発見しました。それは
というもの。
リスニングが苦手な生徒さんを仮にAさんとします。
Aさんは “an apple”の聞き取り問題をすると「アナッポー」と正しく聞き取り、かつ、正しく発音することが出来ます。しかし、
「アナッポーって何ですかね?」と
聞き返してきます。
正しく音は聞き取れているけれど、発音とスペルが頭の中で結びついていないのです。したがって、正解の単語とその意味を、記憶の中からひっぱることができません。
そこで正解のスクリプト「an apple」を目で見て確認してもらうと、
「あー、はいはい、アップルね!アナッポーじゃなくてアン・アップルね!」
と、ものすごくキレイなカタカナ英語に直してしまうのです。しかも毎回。
このことを指摘すると、大抵の方が「無意識で直しちゃってました」と驚かれます。
これが冒頭でお話した『悪い癖』です。
新しく学ぶときは、古い知識の『アンラーニング』が大事
ちなみにAさんは“full”と“four”の聞き取りも苦手です。
full を four だと思ってしまう。なぜならfullは「フル」と、ハッキリ L を発音するものと固定観念が染みついてしまっているから。正しくは「ル」をハッキリ言わず、「フーッ」に近い発音になります。
***
みなさんは「アンラーニング(unlearning)」という言葉を聞いたことがありますか。
アンラーニングとは、「既存の知識を意識的に捨てること」を指します。変化の激しい時代のいま、新しいことを学ぶには、これまでの常識や知識を一旦捨てる必要があるという意味で、組織論や人材開発などでよく使われる言葉です。
言うのは簡単ですが、アンラーニングを実行するのは難しい。特に年齢を重ねれば重ねるほど、成功体験が邪魔をします。だから意識的に捨てるのがポイントなんですね。
私はこのアンラーニングの考え方が、リスニングの勉強にも当てはまると思います。
大切なのは、音声変化の知識よりも既存の間違った発音認識を意識的に捨てること。長年の間染みついてしまったカタカナ発音を拭い去るのが、まず必要だと思うのです。
特に30代以上の大人のみなさま。私たちが初めて英語のアルファベットを習ったのはローマ字じゃなかったでしょうか?
このローマ字こそが、私たち日本人を苦しめる悪の根源だと思っています。
ローマ字って英語じゃないんですよね。あくまで日本語をラテン文字であらわしたもの。
本当は“A, I, U, E, O”は「あいうえお」というより「エィ、アイ、ユー、イー、オゥ」なのに、「あいうえお」で覚えてしまった。
そしてその感覚が大人になっても染みついて直らない…。恐ろしいです。
ネイティブの発音とスペルが頭の中で結びつかないという方は、ぜひローマ字をべースにしたカタカナ発音を意識的に捨てるようにしてみてください。
音声変化ルールの学び方
アンラーニングに明確な終わりはありません。既存の間違った発音知識を捨てることを意識しつつ、音声変化のルールを学ぶと効果的です。
正しい発音を学び直すには、
- 【気づき】自分の理解している発音と正しい発音はどうやら違うぞ。
- 【学習】正しい発音はなに?
このステップを地道に繰り返すしかありません。
音声変化のルールを効果的に学ぶなら、2.の正しい発音を知るタイミングがベスト。特に聞き取れなかった理由が音声変化によるものであればなおさら効果的です。
普段の勉強に音読をたくさん取り入れて、自分の発音と正しい発音を聞き比べてみましょう。
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ちなみに私が留学していた時、最初に「ん?なんか自分が理解している発音とネイティブ発音は違うぞ」と気づいた単語は “mountain” でした。
カタカナ発音では「マウンテン」ですよね。でも、実際にネイティブの発音を聞くと「マウンウン」にしか聞こえない。ロッキー山脈の近くに住んでいたから、“mountain”という単語が頻繁に出てくるのですが、どうしても「マウンウン」にしか聞こえない。
当時は音声変化の知識なんて当然持ち合わせていませんので、「この地域の訛りなのかな~?」くらいに思っていました。
この“mountain”の “t” が落ちて「マウンウン」になるのは、音声変化のルールによると「飲み込みの t 」と呼ばれる法則だそうです。“certain”や“written”も同じで、t は飲み込む感じでハッキリ発音しません。
言われてみれば確かにそうだな、と。この記事を書くために調べて初めて知ったので、20年越しで自分の聞き取り&発音に自信が持てました。
ちなみに “t” の音声変化は、”water(ワーラー)”のように、TがDっぽく発音される「フラップ T」の法則(※アメリカ英語)など、他にもいくつかあります。
一般的に、覚えておくべき音声変化のパターンは全部で5~6つと言われていますが、個人的に、暗記する必要はないかと思います…。
本記事は音声変化ルールの説明ではないので解説もしませんが、勉強したいという方は他のサイトや本を参考にしてみてください。
おすすめはYou Tube。ネイティブの英語教師が説明している動画が結構あって、ルールと共に正しい発音も知れるのでお得です。
学び直すときに気を付けること
上で説明した通り、音声変化のルールを学ぶときは、発音を間違えて覚えてしまっていた単語から逆引きする方法が現実的です。
普段よく聞く単語や表現で「スペルはこうだけど、実際に言う時はこの音が落ちるんだなー」とか、そんな風に学んでいくのが効果的。
またリスニング全般に言えることですが、聞き取る時は自分の耳の力を信じてあげてください。
心に留めておくべきは、リスニングはリスニングでしか向上しないということ。とにかく聞いて聞いて聞きまくるのが最短の道。
聞き取れなかったからといってすぐに答えのスクリプトを見てはダメ。スペルを見て理解してしまえば、それは目からの情報で意味を理解しているということになります。
それではリスニング力は向上しません。目で見て正しいスペルを覚えるのと同じくらい、耳から正しい発音を覚えることが重要です。
結論:ルールを学ぶ時間をリスニングにあてて
ここまでお話したように、ネイティブの英語が聞き取れないのは「音声変化のルールを知らないから」というより、「間違ったカタカナ英語が染みついてしまっていて、正しい発音とスペルを結び付けるのを邪魔しているから」という原因のほうが大きいと思います。
この問題を解決するには、自分が無意識に『悪い癖』を繰り返していないか、確認してみてください。
音声変化のルールを学ぶこと自体は否定しません。ですが、その知識が入ったところでリスニング力がぐっと上がるかというと、正直あまり変わらないと感じています。
音声変化のルールを勉強するとともに、一分でも長くリスニングに取り組むことをお忘れなく!
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